第5条までは覚醒レベルを向上させるための日中の活動についてご紹介しましたが、ここからはぐっすり眠るための方法についてご紹介したいと思います。
睡眠モードの準備では、夕食が大事な要素となります。その内容について詳しく見ていきましょう。
夕食で食べるべき食品

夜ぐっすり眠るためには、体を冷やす食品を食べることをお勧めします。例えば、冷やしトマト。体を冷やす性質のある食材を冷やして食べればより体温が下がりやすく、効果的です。他の野菜や果物では、大雑把に、旬が夏のもの・葉物野菜・水分量の多いもの・南国での栽培が適しているものが該当しやすいです。他には、白砂糖や蕎麦、蒟蒻、牛乳、緑茶などがあるようです(※1)。
また物理的に、よく冷えた清涼飲料水や氷、アイスなども体を冷やすものに該当します。
ネット上や料理本にこれらの食材を用いたレシピが沢山載っているので、工夫して継続的に夕飯に取り入れてみて下さい。冷やしトマトはあくまでも眠る準備を整えるもので眠らせるものでないことを留置して下さい。また無理に沢山食べるとお腹を壊します。
体を冷やす以外で熟睡に効果的なもの

体を冷やすもの以外で睡眠に良いとされるものとして、東洋の漢方薬や、西洋のカノコソウやカモミールなどのハーブが知られています。その効果の詳細な検証はされていないこともありますが、何百年と使用され今や世界中で認知されていること自体が、ある程度の効果がある証拠だと言えるでしょう。
また、睡眠薬やサプリメントもありますが、中には副作用が強い製品や科学的根拠の乏しい製品も含まれますし、科学的根拠が立証された特性成分を摂取しても意図した通りに体内で働かない(本来の効果が発揮されない)こともあります。
また、バランスの取れた食生活や規則正しい生活、減量などの体質改善を心掛けるだけで睡眠が改善される場合が多くあります。そのため、安易に薬やサプリメントに飛びつくのではなく、使用する際には、事前に調べたり専門家に聞いたりと正しい情報を得る努力をするのが望ましいです。
体を冷やすものを食べるべき理由

ヒトは恒温動物であり、体温は恒常性(ホメオスタシス)によってほぼ一定になるよう調整されています。しかしながら、体温は、元々備わっている約24時間周期の体内時計(概日リズム)の影響を受け、少しではありますが、一日で約0.7度の日内変動をしています。
厳密には体温には、手足の温度(皮膚温度)と体の内部の温度(深部温度)の2つがあります。日中の覚醒時には、皮膚温度が低く深部温度が高くなり、最大温度差は約2度になります。反対に、睡眠時には、皮膚温度が高く深部温度が低くなり、温度差は2度以内に収まります。これは、表面積が大きい手足(末端)からの熱放散によって深部体温を下げており、深部体温を下げることで臓器や筋肉、脳を休ませているからです。
ここで重要なのが、スムーズな入眠には深部温度と皮膚温度の差を縮めることが必要だということです。温度差を縮めれば縮めるほど眠気が強まるため、夕飯で深部温度を下げる性質のある食品や飲料を意識的に摂取することが効果的です。
夕飯の必要性

ダイエットなどで夕飯を抜く人もいるかと思いますが、夜中にお腹が空いて夜食を食べてしまったり、空腹感により眠れなくなってしまうことがあります。
実際、夕飯を抜くと、食欲が増大し、さらに覚醒して眠れなくなる可能性が高くなるとされています。
この現象には、オレキシンというホルモンが関与しています。夕飯を食べないと、脳の視床下部ではオレキシン神経細胞(オレキシンを放出する神経細胞)がオレキシンを放出し、また自身が持つオレキシン受容体でオレキシンの作用を高めオレキシン神経活動が高い状態に保たれます(※2)。
食欲増進及び覚醒促進の効果をもつオレキシンが活性化している状態では、覚醒が維持されるため眠りにくくなります。また、オレキシンは、交感神経の活発化や体温上昇も引き起こすため、自律神経の乱れを生じあらゆる不調を招く恐れがあります。
夕飯は食べるべきですが、食べ過ぎは消化により時間が掛り胃もたれになりやすいため、寝る2時間前までを目安に腹八分目に抑えることをお勧めします。また水分の摂り過ぎは、利尿作用を強めて、夜中トイレで目が覚めやすくなるので気を付けて下さい。
【参考】
※1: テルモ体温研究所、冷え性対策「食」編
※2: 脳の”覚醒”レベルを上げる神経メカニズムを解明、国立研究開発法人科学技術振興機構、プレスリリースH22/9/22