「十分な睡眠時間を確保したのに眠い」、「疲れが残っていて朝起きるのがつらい」、「寝不足ではないのに、やる気が出ない」などの経験をしたことはありませんか?
この記事では、たくさん寝ても疲れが取れなかったり、寝不足というほど睡眠時間が短いわけではないのに起きられない……など、寝すぎてしまうことで「もしかしたら自分は病気なのかも」と不安に感じている方に、寝すぎてしまう原因や、寝すぎが関連する病気、改善方法について解説します。
寝すぎとはどれくらいの時間?
心身ともに健康な状態の時に、体が必要としている時間以上に眠ることを“寝すぎ”と言いますが、その人の年齢や体質、生活スタイルなどによって適切な睡眠時間が異なるため、明確な定義はありません。
睡眠時間は短すぎても長すぎても体に負担がかかるので、自分にとって適切な睡眠時間を取ることが大切です。また、休日だからといって寝すぎてしまうと、体内時計が狂って睡眠が浅くなったり、寝つきが悪くなる可能性があるので注意が必要です。休日でも、平日の睡眠時間+2時間までを目安としましょう。
寝すぎてしまう原因6つ
自分ではしっかり寝たつもりでも、睡眠環境や生活環境が影響して熟睡できていない場合があります。日常的に寝すぎてしまう方は、睡眠の質が低いことで効率的に疲れが取れず、結果的に睡眠時間が増えているのかもしれません。
まずは寝すぎてしまう原因について考えてみましょう。
1:ストレス
人の体は一般的に、日中は交感神経が優位になり、睡眠時は体をリラックスさせる副交感神経が優位になります。
健康な時は交感神経と副交感神経のバランスが保たれていますが、ストレスを受けると交感神経が優位になるため、自律神経のバランスが崩れることで睡眠の質が下がり、寝すぎにつながる可能性があります。
2:睡眠不足
忙しい平日などに十分な睡眠時間を確保できず、睡眠負債(睡眠不足の状態)が溜まってまってしまうと、寝すぎを引き起こす可能性があります。平日と休日の睡眠時間の差が2時間以上ある方は要注意です。
一般的な睡眠時間について、厚生労働省が示す「健康づくりのための睡眠指針 2014」には、「日本の成人の睡眠時間は6時間以上8時間未満の人がおよそ6割を占め、これが標準的な睡眠時間と考えられます」と記載されています。
また、ブレインスリープが全国47都道府県の1万人(性別・年齢・都道府県で割付)を対象として行った「睡眠偏差値®」調査によると、日本の平均睡眠時間は2020年では6時間27分、2021年では6時間43分、2022年では6時間48分となり、過去2年間で睡眠時間が21分増加するなど改善する傾向がみられていました。しかし、2023年の調査では、日本の平均睡眠時間は6時間43分で、2022年と比較すると5分短くなり、2021年と同じ睡眠時間に戻る結果となりました。
3:疲労
通常、十分な睡眠時間を取れば体の疲れは回復しますが、疲労が過度に蓄積していると、寝てもだるさや疲れが解消されず、寝すぎてしまいます。疲労を蓄積しすぎないように日々の生活をコントロールすることが重要です。
4:体質(ロングスリーパー)
ロングスリーパーとは、生まれつき必要な睡眠時間が長い人のことを指します。ロングスリーパーは遺伝的な要素が強く、体質なので、睡眠障害のひとつである過眠症とは異なります。
一般的には、毎日
9時間以上の睡眠を取らなければ睡眠不足を感じてしまう人を指しますが、睡眠障害国際分類第
3版(
ICSD-3)では「成人は
10時間以上、子どもは年齢に適した睡眠時間より
2時間以上多い場合にロングスリーパー」とされていて、明確な定義はありません。
ロングスリーパーは十分な睡眠時間を確保できれば日中の活動に支障がないのに対し、過眠症は夜間に十分な睡眠を取っていても日中に強い眠気を感じるため、集中しなければならない状況でも耐えきれずに居眠りをしてしまうこともあります。
ロングスリーパーについては、下記の記事でも詳しく紹介していますので、気になる方はチェックしてみてください。
実はあなたも?ロングスリーパーの特徴と治すための方法
5:ホルモンの関係
女性は、月経前に起こる月経前症候群(PMS)の症状のひとつとして、日中に眠気が強くなることがあります。月経前に増加する「プロゲステロン(黄体ホルモン)」によって基礎体温が高くなり、一日の体温リズムにメリハリがなくなるためと考えられています。
妊娠初期には、体を休ませようとするプロゲステロンの働きによって、眠気やだるさが強くなることもあります。また、閉経後は女性ホルモンの分泌量が減少することで、睡眠が浅く、短くなることがあり、その影響で日中に眠気が生じることあると言われています。
6:季節的要因
厚生労働省が示す「健康づくりのための睡眠指針 2014」によると、「睡眠時間は、日の長い季節では短くなり、日の短い季節では長くなるといった変化を示します」と記載されています。
季節による睡眠の変化については様々な研究が行われており、冬は夏に比べて睡眠時間が長くなることが分かってきています。光の刺激によって、体内時計がリセットされたり、朝スッキリと目覚めることができるのですが、日の出が遅くなる冬はその刺激が入ってくる時間が遅くなり、目覚めも遅くなると考えられています。
最も日の短い12月から1月に長くなりやすく、6月から7月の初夏に最も短くなることが分かっている一方で、春になると寝すぎてしまうという調査結果もあるため、まだ完全に解明されているわけではありません。
寝すぎで疑う病気
十分な睡眠時間を取っているのに眠気が取れず、寝すぎてしまう時に考えられる病気をご紹介します。当てはまると感じた方は、一度クリニックで診てもらうことをおすすめします。
1:特発性過眠症
夜にしっかりと睡眠時間を確保できているにも関わらず、日中に過度な眠気が生じる病気です。発症の原因はまだわかっていませんが、睡眠・覚醒を調整している脳の機能異常が指摘されています。
目が覚めた時に頭がスッキリしないことが多く、強い眠気のために何度も居眠りをしてしまう方や、めまいや立ちくらみ、頭痛などの症状を伴う方もいます。
2:うつ病
代表的な精神疾患で、精神的ストレスや身体的ストレスなどにより、脳がうまく働かなくなっている状態です。気分障害のひとつですが、精神症状だけでなく、過眠や、不眠、食欲の変化、体のだるさなどを伴う方もいます。
一般的に、うつ病における“眠る”という行為は「寝逃げ」とも言われており、強いストレスやつらいできごとから現実逃避するための防衛本能でもあると言えます。睡眠には心身の疲労回復効果があるので、うつ病中にたくさん眠るのは悪いことではありません。
3:睡眠時無呼吸症候群(SAS)
睡眠時に、空気の通り道(上気道)が狭くなり、呼吸が止まる“無呼吸”や、呼吸が止まりかける“低呼吸”を繰り返す病気です。無呼吸と低呼吸を繰り返すことで、脳も体も酸欠状態に陥るため、様々な臓器に負担がかかります。
眠りが浅くなってしまうので、十分な時間眠ったのに疲れが取れないことがあります。
4:むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群・下肢静止不能症候群)
むずむず脚症候群は、レストレスレッグス症候群や下肢静止不能症候群とも呼ばれ、主に下肢に不快な症状を感じる病気です。女性の方が男性の1.5倍程度かかりやすいと言われています。
症状として、脚がむずむずする、脚を動かしたくて我慢できなくなる、ほてる、脚の深部をかきむしりたくなるなど、脚の内側から何とも言えない不快感が起こり、脚を動かすと和らぎます。
夜眠ろうとしてベッドに入ったタイミングに症状が現れたり強くなることが多いため、なかなか寝つけなかったり、睡眠中に脚の不快感で目が覚めてしまうことで、睡眠不足になってしまいます。
基本的には夕方から夜にかけて現れたり、強くなることが多いですが、新幹線や飛行機、映画館などでじっと座っている時に現れることもあります。
寝すぎで注意することや症状
寝すぎることが、頭痛やだるさの原因になる場合があります。
寝すぎ頭痛(片頭痛)
寝すぎることで起こる頭痛に医学的な因果関係はありませんが、寝すぎた後に片頭痛が起こることがあります。
人は長く眠ると、血管が弛緩します。さらに熟睡モードに入ると心拍数や呼吸数が低下して血流が緩やかになります。この状態で起床すると、体は必死になって血液を送ろうとして、血管の拍動が強まります。その結果、血管のまわりにある三叉神経が引っ張られ、片頭痛が起きると考えられています。
長く眠れば眠るほど、起床時の反動が大きくなります。
寝すぎ頭痛(緊張型頭痛)
枕から頭が落ちてたり、首や腰、手や足などが曲がっているなど、寝姿勢が悪いまま長時間眠ってしまうと、首や肩に余計な負担がかかり、頭痛が生じることがあります。
倦怠感(だるい)
寝すぎると、二日酔いのような倦怠感が起こることがあります。「睡眠酩酊(すいみんめいてい)」と呼ばれていますが、アルコールが引き起こすダメージとは異なります。
人は光の刺激により体内時計をリセットしますが、寝だめをすることで1日のサイクルを司る脳の部分が混乱し、倦怠感を引き起こすと考えられています。
寝すぎてしまう時の解決策5つ
寝すぎてしまう原因には睡眠不足が影響していることが多いので、自分にとって適切な睡眠時間を確保しつつ、睡眠の質を高めましょう。
十分な睡眠時間と睡眠の質を高めることが一番の解決策ですが、しっかり寝ても改善されない場合は病気の可能性があるので、一度医療機関を受診してください。
1:ストレスを解消する
悩み、イライラ、緊張などの心理的ストレスは、脳を活性化させる交感神経を働かせるため、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなる、熟眠できなくなるなど、睡眠の質が低下します。
ストレスを抱え込まないようにするために、まずはストレスの原因を考えて受け入れ、こまめに発散・解消する方法を探しましょう。スポーツやカラオケ、買い物、旅行など、気分転換になることであれば何でも構いません。また、睡眠時にリラックスできるアロマやヒーリング系の音楽を取り入れることも効果的です。
2:仮眠を取る
夜に十分な睡眠時間を取ることができなかった日は、日中に15~30分程度の仮眠を取って睡眠不足を補いましょう。睡眠不足は蓄積されてしまうので、日々解消することが大切です。
また、眠気を感じる前に仮眠すると常に頭がスッキリした状態を維持できるので、日中のパフォーマンスが良くなります。ただし、長時間の仮眠を取ると夜に寝つきが悪くなる可能性があるので気をつけましょう。
3:食生活の改善
カフェインを多く含む飲み物は交感神経を刺激するため、就寝前に飲むと入眠しにくくなります。個人差はありますが、血中のカフェイン濃度が半減するのには4~6時間はかかると言われているので、夕方以降にエナジードリンクや栄養ドリンク、コーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶、ほうじ茶などを飲む習慣のある方は注意してください。
寝つきが良くなるイメージのアルコールも、覚醒作用があるので就寝前には摂取しないようにしましょう。
また、生活リズムを整えるためには1日3食、毎日決まった時間に食べることが望ましいとされています。特に朝食は体内時計をリセットする役割もあるので、少しだけでも食べる習慣をつけましょう。
4:正しい方法での入浴
人は、一度上がった体温が下がるタイミングで眠気を感じるので、眠る1.5~2時間程度前に、40℃前後のぬるめのお湯で15分ほど入浴しましょう。ただし、入眠直前に熱すぎるお風呂につかると交感神経が働き覚醒してしまうので、どうしても熱いお湯につかりたい場合は短時間にしましょう。
5:睡眠環境を見直す
「寝つきが悪い」、「途中で目覚めてしまう」、「十分な時間寝ているのに、朝起きた時に疲れが取れていない」など、睡眠の質が悪いことによる悩みのある方は、一度、睡眠環境を見直してみましょう。
枕やマットレスなどの寝具を見直す
枕やマットレスは、睡眠の質にとても大切です。頭や体が程よく沈み込み、体圧分散に優れ、寝返りが打ちやすい商品を選んでください。また、通気性や洗いやすさなども確認して購入しましょう。
季節に合わせて掛け布団を変えるのが面倒な方は、1年を通して快適に使用できるタイプの掛け布団がおすすめです。
睡眠前の光を意識する
睡眠前にパソコンやスマートフォンの光を浴びると、体内時計が狂って寝つきが悪くなる原因となります。できれば就寝の1〜2時間前までには使用をやめましょう。
また、寝室は蛍光灯などの白色~青色の寒色系の光よりも、オレンジ色に近い暖色系の明かりがおすすめです。赤みを帯びたやわらかい光や間接照明を取り入れて、リラックスしましょう。
寝室の温度を適切にコントロールする
寝室の快適な温度は、夏は25〜27℃前後、冬は15〜18℃前後、湿度は通年50〜60%が理想と言われています。
一度上がった体温が下がるタイミングで眠気が促されるので、室内温度と湿度に気を配りましょう。温度が低すぎても高すぎても、深部体温(体の中の体温)が下がらず、寝つきが悪くなったり、睡眠中の覚醒が増えるなど、睡眠の質が低下する恐れがあります。
また、夏と冬では外気温が異なるので、各シーズンに応じて寝具やエアコン、加湿器などをうまく利用して睡眠環境を調整しましょう。
快眠環境を整えることが大切
寝すぎてしまう原因や可能性のある病気、改善方法などをご紹介しました。睡眠の質を高めることで効率的に疲労回復したり、適切な時間でしっかりと目覚めることができるので、“睡眠時間”よりも“睡眠の質”にこだわってみてはいかがでしょうか。
「人生の3分の1を占める」と言われている睡眠は、毎日の疲れを癒し、心も体も回復させる大切な時間だからこそ、一度、生活環境や睡眠環境を見直しましょう。特に睡眠の質を左右する枕やマットレスなどの寝具にこだわることが、最高の睡眠への第一歩です。
【参考】
※ 「睡眠偏差値®」ブレインスリープ
※
「健康づくりのための睡眠指針 2014」厚生労働省