「十分な睡眠時間を確保したのに眠い」、「疲れが残っていて朝起きるのがつらい」、「寝不足ではないのに、やる気が出ない」などの経験をしたことはありませんか? この記事では、たくさん寝ても疲れが取れなかったり、寝不足というほど睡眠時間が短いわけではないのに起きられない……など、寝すぎてしまうことで「もしかしたら自分は病気なのかも」と不安に感じている方に、寝すぎてしまう原因や、寝すぎが関連する病気、改善方法を解説します。
寝すぎとはどれくらいの時間?
心身ともに健康な状態のときに、身体が必要としている時間以上に眠ることを“寝すぎ”といいます。その人に必要な睡眠時間は年齢や体質、生活スタイルなどによって異なりますが、全米睡眠財団(The National Sleep Foundation)によると、年齢別の適切な睡眠時間の目安は以下のとおりです。
年齢 | 睡眠時間の目安 |
---|---|
新生児(3ヵ月未満) | 14〜17時間 |
乳児(4〜11ヵ月) | 12〜15時間 |
幼児(1〜4歳) | 11〜14時間 |
未就学児(4〜6歳) | 10〜13時間 |
学齢期(6〜15歳) | 9〜11時間 |
若者〜成人(15歳〜64歳) | 7〜9時間 |
高齢者(65歳以上) | 7〜8時間 |
睡眠時間は短すぎても長すぎても身体に負担がかかるので、まずは上記の表を参考に自分にとって適切な睡眠時間を取ることが大切です。
また、休日だからといって寝すぎてしまうと、体内時計が狂って睡眠が浅くなったり、寝つきが悪くなる可能性があります。休日でも、平日の睡眠時間+2時間までを目安としましょう。
寝すぎてしまう原因8つ
自分ではしっかり寝たつもりでも、睡眠環境や生活環境が影響して熟睡できていない場合があります。日常的に寝すぎてしまう方は、睡眠の質が低いことで効率的に疲れが取れず、結果的に睡眠時間が増えているのかもしれません。
睡眠の質を低下させ、結果的に寝すぎを招く原因としては、主に以下の8つが考えられます。
- ストレス
- 睡眠不足
- 疲労
- 体質(ロングスリーパー)
- ホルモンの関係
- 季節的要因
- 薬や嗜好品
- 生活習慣の乱れ
ストレス
人の身体は一般的に、日中は交感神経が優位になり、睡眠時は身体をリラックスさせる副交感神経が優位になります。 健康なときは交感神経と副交感神経のバランスが保たれていますが、ストレスを受けると交感神経が優位になるため、自律神経のバランスが崩れることで睡眠の質が下がり、寝すぎにつながる可能性があります。
睡眠不足
忙しい平日などに十分な睡眠時間を確保できず、睡眠負債(睡眠不足の状態)が溜まってしまうと、寝すぎを引き起こす可能性があります。平日と休日の睡眠時間の差が2時間以上ある方は要注意です。
一般的な睡眠時間について、厚生労働省が示す「健康づくりのための睡眠ガイド2023」には、適正な睡眠時間には個人差があるものの、その目安は6時間以上であると記載されています。
また、ブレインスリープが全国47都道府県の1万人(性別・年齢・都道府県で割付)を対象としておこなった「睡眠偏差値®」調査によると、日本の平均睡眠時間は2020年では6時間27分、2021年では6時間43分、2022年では6時間48分となり、過去2年間で睡眠時間が21分増加するなど改善する傾向がみられていました。
しかし、2023年の調査では、日本の平均睡眠時間は6時間43分で、2022年と比較すると5分短くなり、2021年と同じ睡眠時間に戻る結果となりました。
疲労
通常、十分な睡眠時間を取れば身体の疲れは回復しますが、疲労が過度に蓄積していると、寝てもだるさや疲れが解消されず、寝すぎてしまいます。疲労を蓄積しすぎないように日々の生活をコントロールすることが重要です。
体質(ロングスリーパー)
ロングスリーパーとは、生まれつき必要な睡眠時間が長い方のことを指します。ロングスリーパーは遺伝的な要素が強く、体質なので、睡眠障害の一つである過眠症とは異なります。
一般的には、毎日9時間以上の睡眠を取らなければ睡眠不足を感じてしまう方を指しますが、睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)では「成人は10時間以上、子どもは年齢に適した睡眠時間より2時間以上多い場合にロングスリーパー」とされていて、明確な定義はありません。
ロングスリーパーは十分な睡眠時間を確保できれば日中の活動に支障がないのに対し、過眠症は夜間に十分な睡眠を取っていても日中に強い眠気を感じるため、集中しなければならない状況でも耐えきれずに居眠りをしてしまうこともあります。
ロングスリーパーについては、下記の記事でも詳しく紹介していますので、気になる方はチェックしてみてください。
実は自分もロングスリーパー?特徴や原因、診断方法と治し方について
ホルモンの関係
女性は、月経前に起こる月経前症候群(PMS)の症状の一つとして、日中に眠気が強くなることがあります。月経前に増加するプロゲステロン(黄体ホルモン)によって基礎体温が高くなり、一日の体温リズムにメリハリがなくなるためと考えられています。 妊娠初期には、体を休ませようとするプロゲステロンの働きによって、眠気やだるさが強くなることもあります。
また、閉経後は女性ホルモンの分泌量が減少することで、睡眠が浅く、短くなることがあり、その影響で日中に眠気が生じることもあると言われています。
季節的要因
厚生労働省が示す「健康づくりのための睡眠ガイド2023」によると、「睡眠時間は季節によっても変動し、夏季に比べて冬季に10〜40分程度、睡眠時間が長くなる」と記載されています。
主な原因は、日長時間(日の出から日の入りまでの時間)の短縮です。
朝の目覚めや体内時計のリセットには光の刺激が関係しています。日の出が遅くなる冬は光の刺激が入ってくる時間が遅くなるため、目覚めも遅くなると考えられています。
反対に夏は、光の刺激が入ってくるのが早い(日長時間の延長)のにくわえ、寝室が高温・多湿になりがちであることから、寝つきや眠りの持続が他の季節よりも難しくなると考えられています。
その一方で春になると寝すぎてしまうという調査結果もあるため、日長時間と睡眠時間の因果関係はまだ完全に解明されているわけではありません。
薬や嗜好品
薬やお酒、タバコ、コーヒーなどの嗜好品も睡眠に影響を及ぼします。
例えば、睡眠薬、精神安定剤を服用している場合、起床時にも薬の作用が残り寝すぎにつながる可能性があります。
また、お酒に含まれるアルコール、タバコに含まれるニコチン、コーヒーなどに含まれるカフェインは睡眠の質を低下させるため、摂取する量やタイミングに注意が必要です。
生活習慣の乱れ
夜更かしや運動不足、食事の偏りなど生活習慣の乱れも、睡眠の質が低下する原因です。
特に、夜更かしや不規則な生活は体内時計を狂わせることから、レム睡眠、ノンレム睡眠など睡眠の周期の乱れにもつながり、睡眠の質を低下させます。
体内時計のリズムを一定に保つためには、なるべく平日も休日も同じ時間に起床・就寝するように心がけることが重要です。
寝すぎが気になった時に注意したい病気
十分な睡眠時間を取っているのに眠気が取れず、寝すぎてしまう場合は、病気が原因の可能性もあります。
寝すぎで疑う病気には主に、特発性過眠症やうつ病など、脳の睡眠を調節する機能がうまく働かず、日中に強い眠気が出現するものと、睡眠時無呼吸症候群やむずむず脚症候群など身体の症状のために深く眠ることができず、慢性の睡眠不足となってしまう病気の2種類があります。
以下、それぞれの病気の特徴や症状を紹介しますので、当てはまると感じた方は、一度クリニックで診てもらうことをおすすめします。
特発性過眠症
夜にしっかりと睡眠時間を確保できているにも関わらず、日中に過度な眠気が生じる病気です。発症の原因はまだわかっていませんが、睡眠・覚醒を調整している脳の機能異常が指摘されています。 目が覚めた時に頭がスッキリしないことが多く、強い眠気のために何度も居眠りをしてしまう方や、めまいや立ちくらみ、頭痛などの症状をともなう方もいます。
うつ病
代表的な精神疾患で、精神的ストレスや身体的ストレスなどにより、脳がうまく働かなくなっている状態です。気分障害の一つですが、精神症状だけでなく、過眠や、不眠、食欲の変化、身体のだるさなどをともなう方もいます。 一般的に、うつ病における眠るという行為は寝逃げとも言われており、強いストレスやつらいできごとから現実逃避するための防衛本能でもあるといえます。睡眠には心身の疲労回復効果があるので、うつ病中にたくさん眠るのは悪いことではありません。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)
睡眠時に、空気の通り道(上気道)が狭くなり、呼吸が止まる無呼吸や、呼吸が止まりかける低呼吸を繰り返す病気です。無呼吸と低呼吸を繰り返すことで、脳も身体も酸欠状態に陥るため、様々な臓器に負担がかかります。 眠りが浅くなってしまうので、十分な時間眠ったのに疲れが取れないことがあります。
むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群・下肢静止不能症候群)
むずむず脚症候群は、レストレスレッグス症候群や下肢静止不能症候群とも呼ばれ、主に下肢に不快な症状を感じる病気です。女性の方が男性の1.5倍程度かかりやすいと言われています。
症状として、脚がむずむずする、脚を動かしたくて我慢できなくなる、ほてる、脚の深部をかきむしりたくなるなど、脚の内側からなんともいえない不快感が起こり、脚を動かすと和らぎます。
夜眠ろうとしてベッドに入ったタイミングに症状が現れたり強くなることが多いため、なかなか寝つけなかったり、睡眠中に脚の不快感で目が覚めてしまうことで、睡眠不足になってしまいます。
基本的には夕方から夜にかけて現れたり、強くなることが多いですが、新幹線や飛行機、映画館などでじっと座っているときに現れることもあります。
寝すぎで注意することや症状
寝すぎることが、頭痛やだるさの原因になる場合があります。
寝すぎ頭痛
寝すぎることで起こる頭痛に医学的な因果関係はありませんが、寝すぎたあとに片頭痛(偏頭痛)や緊張型頭痛が起こることがあります。
人は長く眠ると、血管が弛緩します。さらに熟睡モードに入ると心拍数や呼吸数が低下して血流が緩やかになります。この状態で起床すると、身体は必死になって血液を送ろうとするため、血管の拍動が強まります。その結果、血管のまわりにある三叉神経が引っ張られて、片頭痛が起きると考えられています。 長く眠れば眠るほど、起床時の反動が大きくなります。
一方、緊張型頭痛とは、身体的・精神的なストレスが関係していると考えられている頭痛です。枕から頭が落ちてたり、首や腰、手や足などが曲がっているなど、寝姿勢が悪いまま長時間眠ってしまうと、首や肩に余計な負担がかかり、起床後に緊張型頭痛が生じることがあります。
寝すぎ頭痛について、詳しくはこちらをご覧ください。
寝すぎで頭痛が起こる原因とは?タイプ別の治し方や予防策について
倦怠感(だるさ)
寝すぎると、二日酔いのような倦怠感が起こることがあります。「睡眠酩酊(すいみんめいてい)」と呼ばれていますが、アルコールが引き起こすダメージとは異なります。 人は光の刺激により体内時計をリセットしますが、寝だめをすることで1日のサイクルを司る脳の部分が混乱し、倦怠感を引き起こすと考えられています。
筋肉痛
寝すぎで同じ姿勢が長く続くと、筋肉がこわばって血流が悪化し、筋肉痛を引き起こします。
寝すぎによって筋肉痛を起こしやすい部位は主に、肩、腰、背中などです。
起床時にこれらの箇所が痛む場合は、軽いストレッチや散歩、湯船に浸かるなどして血流を良くすると痛みが和らぐ可能性があります。
体重増加
意外にも、睡眠時間の過不足は体重増加にも関係しているという調査研究があります。
21歳から64歳までの成人男性・女性合わせて276人の体組成と睡眠時間を測定したところ、睡眠時間が短いグループ(5~6時間程度)と睡眠時間が長いグループ(9~10時間程度)は、睡眠時間が中程度(7~8時間程度)のグループと比べて、体重増加の可能性や肥満の発症リスクが高いことがわかりました。
具体的には、6年間で体重が5kg増加する可能性が、睡眠時間が短いグループ は35% 、睡眠時間が長いグループは25%と睡眠時間が中程度のグループよりもそれぞれ高く、肥満の発症リスクもそれぞれ27%と21%増加したそうです。
このことから、日常的に寝すぎの状態が続いている方は、体重増加の傾向や肥満になるリスクがあると考えられます。
心臓と血管の病気
また、睡眠の過不足は心筋梗塞、狭心症などの虚血性心疾患、高血圧、脳梗塞による死亡リスクに影響するというオックスフォード大学の調査研究もあります。
がん、心臓発作、脳卒中の病歴のない男性61,936人と女性73,749人を対象に調査を実施したところ、男女ともに睡眠時間が短い人(5時間以下)と長い人(9時間以上)の方は、全死因死亡率と心血管疾患(CVD)死亡率のリスクが上昇したとのことです。
このことから、平均9時間以上の睡眠をとっている方は、心筋梗塞、狭心症などの心臓や血管の病気を発症するリスクが高いと考えられます。
寝すぎてしまうときの改善・対策方法5つ
寝すぎてしまう原因には睡眠不足が影響していることが多いので、自分にとって適切な睡眠時間を確保しつつ、睡眠の質を高めましょう。 十分な睡眠時間と睡眠の質を高めることが一番の解決策ですが、しっかり寝ても改善されない場合は病気の可能性があるので、一度医療機関を受診してください。
ストレスを解消する
悩み、イライラ、緊張などの心理的ストレスは、脳を活性化させる交感神経を働かせるため、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなる、熟眠できなくなるなど、睡眠の質が低下します。
ストレスを抱え込まないようにするために、まずはストレスの原因を考えて受け入れ、こまめに発散・解消する方法を探しましょう。スポーツやカラオケ、買い物、旅行など、気分転換になることであればなんでも構いません。また、睡眠時にリラックスできるアロマやヒーリング系の音楽を取り入れることも効果的です。
仮眠を取る
夜に十分な睡眠時間を取ることができなかった日は、日中に15〜30分程度の仮眠を取って睡眠不足を補いましょう。睡眠不足は蓄積されてしまうので、日々解消することが大切です。 また、眠気を感じる前に仮眠すると常に頭がスッキリした状態を維持できるので、日中のパフォーマンスが良くなります。ただし、長時間の仮眠を取ると夜に寝つきが悪くなる可能性があるので気をつけましょう。
食生活を改善する
カフェインを多く含む飲み物は交感神経を刺激するため、就寝前に飲むと入眠しにくくなります。個人差はありますが、血中のカフェイン濃度が半減するのには4~6時間はかかるといわれているので、夕方以降にエナジードリンクや栄養ドリンク、コーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶、ほうじ茶などを飲む習慣のある方は注意してください。 寝つきが良くなるイメージのアルコールも、覚醒作用があるので就寝前には摂取しないようにしましょう。
また、生活リズムを整えるためには1日3食、毎日決まった時間に食べることが望ましいとされています。特に朝食は体内時計をリセットする役割もあるので、少しだけでも食べる習慣をつけましょう。
正しい方法で入浴する
人は、一度上がった体温が下がるタイミングで眠気を感じるので、眠る90分程度前に、40℃前後のぬるめのお湯で15分ほど入浴しましょう。ただし、入眠直前に熱すぎるお風呂につかると交感神経が働き覚醒してしまうので、どうしても熱いお湯につかりたい場合は短時間にしましょう。
睡眠環境を見直す
「寝つきが悪い」、「途中で目覚めてしまう」、「十分な時間寝ているのに、朝起きたときに疲れが取れていない」など、睡眠の質が悪いことによる悩みのある方は、一度、睡眠環境を見直してみましょう。
枕やマットレスなどの寝具を見直す
枕やマットレスは、睡眠の質にとても大切です。頭や体がほどよく沈み込み、体圧分散に優れ、寝返りが打ちやすい商品を選んでください。
また、通気性や洗いやすさなども確認して購入しましょう。季節に合わせて掛け布団を変えるのが面倒な方は、自宅の洗濯機でも洗える掛布団がおすすめです。
睡眠前の光を意識する
睡眠前にパソコンやスマートフォンの光を浴びると、体内時計が狂って寝つきが悪くなる原因となります。できれば就寝の1〜2時間前までには使用をやめましょう。
また、寝室は蛍光灯などの白色~青色の寒色系の光よりも、オレンジ色に近い暖色系の明かりがおすすめです。赤みを帯びたやわらかい光や間接照明を取り入れて、リラックスしましょう。
寝室の温度を適切にコントロールする
寝室の快適な温度は、夏は25〜27℃前後、冬は15〜18℃前後、湿度は通年50〜60%が理想と言われています。 一度上がった体温が下がるタイミングで眠気が促されるので、室内温度と湿度に気を配りましょう。温度が低すぎても高すぎても、深部体温(身体の中の体温)が下がらず、寝つきが悪くなったり、睡眠中の覚醒が増えるなど、睡眠の質が低下する恐れがあります。
また、夏と冬では外気温が異なるので、各シーズンに応じて寝具やエアコン、加湿器などをうまく利用して睡眠環境を調整しましょう。