寝だめって効果あるの?
「寝だめ」とは、休日などにまとめて睡眠をとることを指します。一般的に使用される言葉ではありますが、実際は睡眠をためるのではなく、平日の睡眠不足を補っている状態と言われています。 また、寝だめの捉え方によって効果のあり・なしが変わるので、それぞれの理由をご紹介します。効果があると言われる理由
以前までは、寝だめをしても毎日の寝不足を解消することはできないとされていましたが、現在では、週末の寝だめには効果があるとの見解があります。 例えば、2018年にストックホルム大学の研究チームが発表した論文によると、平日は5時間睡眠でも、週末に9時間睡眠をとって睡眠不足を補えば、死亡リスクが上昇しないそうです。 また、非常に疲れていて脳内の疲労因子が溜まっている時は、長時間睡眠によって、疲労回復因子に伴う修復が追いつくとも考えられています。効果がないと言われる理由
寝だめには一定の効果があると言われている一方で、効果がないと考えている専門家もいらっしゃいます。 例えば、精神科医で睡眠医学の専門家アレックス・ディミトリウ(Alex Dimitriu)博士は、多少の睡眠不足なら寝だめによって取り戻せると考えているものの、睡眠不足が多く蓄積されてから取り戻すにはとても長い時間が必要で、蓄積が多すぎると完全に取り戻すことは難しくなると考えています。 また、American Academy of Sleep Medicine Foundationの元プレジデント、ジェームズ・A・ローリー(James A. Rowley)博士は、1時間の睡眠不足を補うためには、1時間多い睡眠では足りず、4日間連続で7~9時間の質の高い睡眠が必要と考えています。 例えば、1日7時間の睡眠を必要とする人が、平日に6時間睡眠が続いた場合、週末には5時間の睡眠不足が蓄積されているため、回復するためには20日間連続で7~9時間の質の高い睡眠が必要ということ。そのため、週末に睡眠時間を1~2時間増やしたとしても、それで1週間分の睡眠不足を補うことはできません。 さらに、厚生労働省の『健康づくりのための睡眠指針 2014 』によると、「睡眠不足が長く続くと、疲労回復は難しくなります。睡眠不足による疲労の蓄積を防ぐ ためには、毎日必要な睡眠時間を確保することが大切です」と記されています。 あくまでも日々、必要な睡眠をとることが大切で、週末などにたくさん眠ったからといって、その後の睡眠不足に耐えられるということではないそう。また、「睡眠不足が蓄積されてしまうと、休日にまとめて睡眠をとろうと試みても、睡眠不足 による能率の低下をうまく補うことはできません」とも記されています。睡眠負債と寝だめついて
「睡眠負債(Sleep Dept)」とは、「ヒトは一定の睡眠時間を必要としており、それより睡眠時間が短ければ、足りない分が蓄積する。つまり眠りの借金が生じる」という、世界一の睡眠研究所であるスタンフォード大学睡眠生体リズム研究所の初代所長ウィリアム・C・デメント教授が、1990年代から使い始めた概念です。 一般的に「睡眠不足」という言葉を使いますが、睡眠研究家は、睡眠が足りていない状態を「睡眠負債」と呼びます。睡眠が足りず慢性化してしまうと睡眠負債に陥り、脳にも体にも多大な影響を及ぼします。睡眠負債がたまると脳のパフォーマンスが下がる
“6時間睡眠が2週間続くと、脳のパフォーマンスは、ひと晩徹夜したときと同程度になる”と言われているほど、睡眠不足と日中のパフォーマンスには密接な関係があります。 寝だめをしても、睡眠をためておくことはできず、あくまでも不足している睡眠不足を補っているにすぎません。また、多すぎる睡眠負債を、ただ多く眠るだけの寝だめによって補うことは難しいため、何よりも睡眠負債をためないことが大切です。寝だめで注意すること
寝だめによって完全に睡眠負債を取り戻せるわけではありませんが、週末しかしっかりと睡眠をとることができないのなら、何もしないよりは週末に寝だめした方がいいと考えられています。その際に気をつけたいのが、「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ぼけ)」です。「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ぼけ)」とは?
「ソーシャル・ジェットラグ(社会的時差ぼけ)」とは、仕事、学校、家事などの社会的制約がある平日と、そのような制約のない休日によって引き起こされる、就寝・起床リズムのズレのことです。体内リズムがズレることで、翌週の夜の寝つきが悪くなったり、睡眠の質が低下する可能性があるので気をつけましょう。 平日に蓄積された疲れをとるために、少し遅起きすることは問題ありませんが、朝日を浴びるタイミングがズレすぎてしまうと体内リズムの乱れにつながるので、いつもより何時間も遅く起きるのは良くありません。起床時間が2時間ズレると体内時計が狂いやすくなると言われているので、朝寝坊する際は2時間以内にしましょう。 寝だめしたい時は、いつもより早い時間に就寝し、平日と週末の起床時間を変えないことが大切です。そうすることで、寝だめに伴う睡眠リズムの悪化を防ぐことができます。寝だめするよりもおすすめの方法
総務省の「平成 23 年社会生活基本調査」によると、日本人の全年齢の平均睡眠時間は、男性が7時間49分、女性が7時間36分と記されています。さらに、働き盛りや子育てに忙しい世代である、35~39歳では、男性が7時間24分、女性が7時間22分と短くなります。最も睡眠時間が短いのは男女とも45~49歳で、男性が7時間18分、女性が6時間48分となっています。 また、睡眠時間を曜日別にみると、1日(午前0時から起算する24 時間)のうち、平日が7時間31 分、土曜日が8時間2分、日曜日が8時間16 分となっており、平日に比べて日曜日は45 分長くなっているそう。 「比較可能な年齢区分である15 歳以上の人について、過去25 年間の睡眠時間の推移を男女別にみると、男女共に減少傾向となっており、昭和61 年と比べると、男性は10 分、女性は6分の減少となっている」とも記載されているように、忙しい現代人が毎日長い睡眠時間を確保するのは難しいもの。 そこで最近では、睡眠時間よりも睡眠の質に注目が集まっています。睡眠には、“レム睡眠”と“ノンレム睡眠”の2種類がある
睡眠には、“ノンレム睡眠(脳も体も熟睡している状態)”と、“レム睡眠(体は休んでいるが、脳は起きている状態)”の2種類があります。
個人差はありますが、一般的に、入眠直後は深い眠りのノンレム睡眠の状態で、入眠から約90分後に、浅いレム睡眠に変わります。その後ノンレム睡眠とレム睡眠を約90分の周期で、一晩に4~5回繰り返し、明け方に近づくにつれ、ノンレム睡眠の間隔が短く、レム睡眠の間隔が長くなっていきます。
眠り始めの90分が重要
その中でも大切なのが、最初の90分です。「眠り始めの90分の質が悪いと、その後何時間寝ても睡眠の質が悪い」とまで言われているほど、入眠後の90分は重要です。その理由は、この黄金の90分の睡眠が深ければ深いほど、眠りたいという欲求である“睡眠圧”が放出され、自律神経とホルモンのバランスが整えられるからです。
最初に訪れる、黄金の90分間では、「脳と体の休息」、「記憶の整理・定着」、「ホルモンバランスの調整」、「免疫力アップ」、「脳の老廃物を取る」といった、睡眠において重要な5つの生理現象が特に活発に行われています。
皮膚や骨、筋肉などの体に必要な要素を作るほか、細胞増殖や正常な代謝促進、アンチエイジングなどの大切な役割も果たすと言われているグロースホルモン(成長ホルモン)が、“黄金の90分”をしっかり深く眠ることでより多く分泌されたり、その後の睡眠の質も改善されるため、全体のスリープサイクルも整います。
脳と睡眠の関係ははっきりしないこともまだまだ多いですが、うつ病や統合失調症の患者は最初のノンレム睡眠が不十分なまま、すぐにレム睡眠が出現することがわかっています。こうしたことからも、最初のノンレム睡眠の質は非常に重要なのではないかと考えられています。