仕事・家事・子育てなど、忙しい日々の中で、毎日しっかり睡眠時間を確保するのは難しいもの。特に平日はあまり眠ることができない……という人が多いのではないでしょうか。
そこで、今回は寝付きが悪い、眠りが浅く夜中に何度も起きてしまう、起床時に眠気や倦怠感を感じるなどの悩みをお持ちの方のために、眠りが浅くなってしまう原因や、その改善法をご紹介します。
<監修>
中島 正裕
理学博士/株式会社ブレインスリープ取締役CFO/睡眠健康指導士上級
1983年山口県出身。2007年東京大学理学部物理学科卒業、2012年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了(理学博士)。
株式会社ブレインスリープには2019年5月の設立時より取締役として参画。CFOとして財務面の統括及びパートナー企業向けの睡眠コンサルティング関連事業に加えて、睡眠偏差値として公表している睡眠関連疫学調査の結果を基にした睡眠研究や企業向け健康経営サポート業務も担当。2021年11月に睡眠健康指導士上級資格を取得。
眠りが浅い人は意外と多い!?
厚生労働省が行った調査(※1)によると、「ここ1ヶ月間、あなたは睡眠で休養が十分とれていますか。」の問いに対して、「まったくとれていない」または「あまりとれていない」と回答した人の合計が、男性 19.7%、女性 19.6%となり、性・年齢別にみると、30代男性が最も多く28.4%という結果に。
つまり、日本全体では約5人に1人、30代男性に関しては約4人に1人は睡眠の質に満足できていないことがわかります。ただし、睡眠の質が悪いことを自覚していない人もいると考えると、実際はさらに数は多いかもしれません。
※1:厚生労働省平成28年「国民健康・栄養調査」
睡眠のメカニズム"黄金の90分"とは?
“眠り始めの90分の質が悪いと、その後何時間寝ても睡眠の質が悪い”とまで言われているほど、入眠後の90分は重要なため"黄金の90分"と呼ばれます。その理由は、この黄金の90分の睡眠が深ければ深いほど、眠りたいという欲求である“睡眠圧”が放出され、自律神経とホルモンのバランスが整えられるからです。
ノンレム睡眠とレム睡眠の関係
睡眠には、“ノンレム睡眠(脳も体も熟睡している状態)”と“レム睡眠(体は休んでいるが、脳は起きている状態)”の2種類があります。
個人差はありますが、一般的に、入眠直後は、脳も体も眠っている“ノンレム睡眠”の状態です。そして入眠から約90分後に、脳は起きているが体は眠っている“レム睡眠”に変わります。その後は約90分ごとにノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返します。このような約90分の周期が、一晩に4~5回繰り返され、睡眠の前半3時間は深いノンレム睡眠が多く、明け方に近づくにつれ、レム睡眠が多くなっていきます。
"黄金の90分"の質を高めるとコンディションが良くなる
皮膚や骨、筋肉などの体に必要な要素を作るほか、細胞増殖や正常な代謝促進、アンチエイジングなどの大切な役割も果たすと言われているグロースホルモン(成長ホルモン)が、“黄金の90分”をしっかり深く眠ることでより多く分泌されたり、その後の睡眠の質も改善されるため、全体のスリープサイクルも整います。
一方でノンレム睡眠が浅かったり、レム睡眠の割合が多いと、長時間眠っても脳が十分に休まりません。また、夜中にちょっとした光や物音で目が覚めてしまうことが増え、目覚めたときの熟睡感が得られにくくなります。
脳と睡眠の関係ははっきりしないこともまだまだ多いですが、うつ病や統合失調症の患者は最初のノンレム睡眠が不十分なまま、すぐにレム睡眠が出現することがわかっています。こうしたことからも、最初のノンレム睡眠の質は非常に重要なのではないかと考えられています。
アテネ不眠尺度(AIS)で不眠症判定をしてみる
WHOが作成した、不眠度の判定を行えるアテネ不眠尺度をご紹介します。不眠症かどうかが心配、眠りが浅く満足感が足りない、長時間寝ても疲れが取れない、といった人は8つのセルフチェックを試してみましょう。
過去1か月間で、少なくとも週3回以上経験したものを選択し、右のスコアの合計を計算してみてください。
いかがでしたか?スコアの合計が4点未満の人は、良質な睡眠をとれていると言えます。
4~5点の人は、やや不眠症の疑いがあるので、心配なら専門医に診てもらいましょう。
6点以上の人は、不眠症の可能性が高いので、無理をせずに専門医に診てもらいましょう。
眠りが浅い原因とは?
常習的に睡眠の質が悪いと、集中力や記憶力、判断力などが低下して仕事や日常生活のパフォーマンスが落ちてしまうため注意が必要です。しかし、自身の睡眠の質が悪い原因がわからないケースも多いと思います。ここでは代表的な原因をみていきましょう。
1:ストレスや不安といったメンタル面
通常、日中は交感神経が、睡眠時は副交感神経が優位に働くのですが、仕事や日常生活で感じるストレスにより自律神経のバランスが崩れてしまうと、眠ろうと思っても交感神経が優位に働き、不眠を引き起こし、睡眠の質を下げてしまいます。
2:生活習慣の乱れ
就寝前に、スマートフォンやパソコンの画面から発せられるブルーライトを浴びると、質の高い睡眠に不可欠なホルモンの“メラトニン”を減らしてしまいます。さらに、眠気が弱まって寝付きが悪くなるので、就寝の1〜2時間前はデジタルデトックスをしましょう。
3:寝具や寝室が最適でない
部屋の温度や湿度が不快、明るすぎる、騒音がひどい、といった環境ではスムーズに入眠できず、やっと寝付けても途中で目を覚ましてしまう原因に。また、寝具が自分の体に合っていないと体が休まらず、疲労回復の妨げになってしまいます。
4:深部体温が下がらない
人の体は、日中は活動するために体温が高く保たれていますが、睡眠時は深部体温(体の内部の温度)を下げることで眠くなり、脳や体をしっかり休息させる仕組みになっています。
その際、皮膚表面から熱を逃がすことで深部体温を下げますが、寝具によっては体に熱がこもってしまい、寝付きが悪く、良質な睡眠を得にくくなります。
眠りが浅い人に見られる傾向
眠りが浅い人によく見られる傾向としては、起床時からの疲労感や倦怠感、日中の強い眠気などが挙げられます。仕事場で怒られるような悪夢を見てしまう場合は、日中のストレスが溜まっているのかもしれません。
また、体内時計のリズムが乱れている人や、自律神経のバランスが乱れている人、ストレスが溜まっている人、就寝前に過剰な飲酒習慣のある人なども、眠りが浅くなりやすいので注意しましょう。
眠りが浅くて疲れが取れない時はどうしたらいい?改善法や対処法
睡眠の質のアップのために見直すべきポイントを4つご紹介します。睡眠の質が悪いと感じる方はぜひ試してみてください。
1:まくらの見直し
睡眠時に、立っている時と同じような正しい首のカーブを再現することで、日中、ダメージを受けた首の修復をすることができるので、睡眠時の姿勢を意識しましょう。もし高さや硬さが合わない枕を使用した場合、ダメージを回復するどころか、悪化させてしまう可能性があります。
また、入眠時の深部体温を約1度下げることで、寝付きが良くなります。脳をしっかり冷やすことで睡眠の質を高めることができるので、通気性のいい枕を使用しましょう。
2:生活習慣(リズム)の見直し
深部体温は、“上げた分だけ下がる”という性質があるので、就寝の1〜2時間前に38〜40℃のぬるめのお風呂に入浴して、一時的に体温を上げ、睡眠時に下がるように調節しましょう。
ぬるめのお湯は副交感神経を優位にするので、心身ともにリラックスして寝付きが良くなります。また、体が温まって末梢血管が広がると、手足からの熱放散がスムーズになるので、基本的には就寝時には靴下などは履かない方が深い睡眠に入ることができ、睡眠の質が高まります。
一方、42℃以上の熱い湯に浸かると交感神経が優位となり、眠りにつきにくくなってしまいます。熱いお湯は気分がスッキリして疲れがとれた感じがしますが、入眠前の入浴にはオススメできません。
3:室温と湿度の見直し
夏は室温26℃程度が良いとされ、28℃を超えると睡眠の質が低下します。一方、冬は16〜19℃が安定した睡眠を得られると言われています。また、湿度は50〜60%が理想的です。
眠る1〜2時間前からは、スマートフォンやパソコンの画面を見るのをやめ、やや暗めの暖色系の光の中で過ごすと寝付きがよくなります。睡眠中は暗いほどよいとされているので、真っ暗な状態が不安な人は暗めのフットライトを使用するのがオススメ。また、朝は太陽の強い光を浴びることで、スッキリと目覚めることができます。
4:食習慣の見直し
就寝前の食事や飲酒、コーヒーなどカフェインが含まれている飲み物を摂取すると、深い眠りを妨げてしまうため控えましょう。また、日光を浴びない生活や電気をつけたままの就寝は、睡眠ホルモンである“メラトニン”の分泌を抑制すると言われているので止めるようにしましょう。
浅い眠りから、深い眠りを獲得するために
眠りが浅いと、長時間眠っても十分な休息感を味わうことができず、日中のパフォーマンスが落ちてしまいます。いつものことだからと放置せず、原因究明や対策をして、満足度の高い、深い眠りを手に入れましょう。