睡眠時間は人それぞれで、短い睡眠で問題ない人もいれば、長時間の睡眠が必要なロングスリーパーも存在します。ですが「他の人よりも長時間眠らないと体調が優れないから、もしかしたら病気なのかも」と不安になっている方がいるかもしれません。
この記事では、ロングスリーパーの特徴や原因、長時間睡眠によって不安を抱えている方が快眠できるコツなどを解説しています。
ロングスリーパー(長時間睡眠者)とは?
ロングスリーパーとは、その名の通り、必要な睡眠時間が長い人のことを指します。ですが、人それぞれ適切な睡眠時間は異なるため“長い睡眠時間”に明確な定義はありません。それぞれ詳細をご紹介します。
ロングスリーパーに明確な定義はない
ロングスリーパーとは、一般的には毎日9時間以上の睡眠を取らなければ睡眠不足を感じてしまう方を指します。睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)では「成人は10時間以上、子どもは年齢に適した睡眠時間より2時間以上多い場合にロングスリーパー」とされています。
しかし、必要な睡眠の長さはその方の体質や日中の活動量などによって異なるため、何時間以上の睡眠をとっていたらロングスリーパーであるなどの明確な定義はありません。 日本国内でのロングスリーパーは、5~10%ほどいるとされていて、それほど珍しいことではありません。人によっては、平日の睡眠不足を休日に補うために、連休中は1日12~15時間程度眠ってしまうこともあるようです。
しっかりと眠れていれば問題ない
一般的に、成人に必要な睡眠時間は6時間以上、子どもに必要な睡眠時間は、小学生で9~12時間、中学・高校生で8~10時間といわれています。
参照:健康づくりのための睡眠ガイド 2023 - 厚生労働省
しかし、年齢や体質、体調、日中の活動量などによって、体が回復するために必要な睡眠時間は異なるため、ただ長時間寝てしまうだけで病気というわけではありません。 日中に眠くならず、快適に活動できるようであれば、何時間以上寝なくてはいけない、何時間以上寝てはいけないなど睡眠時間にこだわる必要はなく、健康にも問題はないと考えられています。
また、何時間でも眠ることができるからといって、ロングスリーパーとは限りません。あくまでも、“最適な睡眠時間”が長い方のことをロングスリーパーと呼びます。
ロングスリーパーの特徴
ロングスリーパーに明確な基準はないとご紹介しましたが、いくつか特徴は見られます。 米国睡眠医学会(AASM:American Academy of Sleep Medicine)によれば、ロングスリーパーの方は、一般的に夜間の睡眠時間が10〜12時間になる傾向があります。 心身をしっかりと休めることができるため、翌日にストレスや疲労が残りにくいのも特徴と言えるでしょう。
その反面、必要な睡眠時間を確保することが難しいことから、なかなか朝起きられない、学校生活や仕事に支障が出るなどの悩みを抱えている方もいるようです。 また、一般的な睡眠時間の方からは怠けて眠っているように見えるなど周囲に理解されにくいことで、不安やストレスを溜め込んでしまいやすいともいわれています。
過眠症とロングスリーパ―の違い
ロングスリーパーは睡眠障害の一つである「過眠症」と同じものだと勘違いされることが多いのですが、実態は異なります。 過眠症の症状や主な特徴は以下のとおりです。- 夜間に十分な睡眠をとっているにもかかわらず、日中に強い眠気を感じる
- 1日の総睡眠時間が長い(典型例は11時間以上)
- 日中に居眠りを繰り返し、一度眠ってしまうと1時間以上眠ってしまう
- 集中しなければならない場合でも強い眠気が生じるが、我慢できないほどではない
1日の睡眠時間が長いという点は共通していますが、ロングスリーパーは十分な睡眠時間を確保できれば日中の活動に支障がないのに対し、過眠症は夜間に十分な睡眠を取っていても日中に強い眠気を感じるのが、両者の大きな違いです。
忙しい現代人が毎日10時間以上の睡眠時間を確保することは難しく、ロングスリーパーでも平均的な睡眠時間(6時間程度)しか眠れず、寝不足の状態になっているというケースが増えています。そのため、ロングスリーパーなのか過眠症なのかを区別することが難しくなっているのです。
ショートスリーパーとロングスリーパーの違い
必要な睡眠時間が長い方をロングスリーパーと呼ぶのに対して、必要な睡眠時間が短い方のことをショートスリーパーと呼びます。 ショートスリーパーとは、6時間未満の短時間睡眠でも問題なく生活できる方のことです。 ショートスリーパーの主な特徴は以下のとおりです。- 短い睡眠時間でも朝気持ちよく起きられる
- 短い睡眠時間でも目覚まし時計を使わずに自然と目覚める
- 仮眠・昼寝をすることがない
- 休日の睡眠時間が平日より2時間以上長くなることはない
睡眠時間が短いと健康や寿命への影響が心配ですが、本人が十分な睡眠をとれていると感じており、なおかつ日常生活を問題なく送れていれば、基本的に健康を損なうことはないといわれています。
睡眠時間を削りがちな現代人にとってはうらやましい体質といえますが、ショートスリーパーかどうかは遺伝子によって決まるという説が有力です。あくまでも体質の問題であり、慣れや気合いでどうにかなるものではありません。 無理な睡眠時間の短縮は、寝不足や心身の不調を招くため、おこなわないようにしましょう。
ロングスリーパーの原因
ロングスリーパーの原因は、いまだ解明されていない部分が多いですが、遺伝や体質、ストレスと疲労が原因のひとつだと考えられています。遺伝
明確にされているわけではありませんが、両親のどちらかがロングスリーパーである場合、子どももロングスリーパーになりやすい傾向があると言われています。ですが、これは遺伝ではなく親の生活スタイルがそのまま子どもに影響している可能性も指摘されています。体質
睡眠に関わる神経伝達物質の、セロトニンやドーパミンが少ないことが原因で睡眠時間が長くなるとも考えられています。セロトニンやドーパミンは眠気を誘発する際に分泌されるのですが、体質的にこれらの分泌量が少ないことで眠りが浅くなり、疲れが十分に取れないために睡眠時間が長くなっている可能性があります。ストレスや疲労
通常、ストレスは交感神経を優位にするため、寝付きを悪くしたり、睡眠の質を低下させるので、精神を安定させるためにも長時間の睡眠が必要になると考えられています。また、日中にたくさん運動をした日はいつもより早く眠気が来るように、人は疲労が溜まると、心身のバランスを整えるためにも睡眠を多く必要とします。 睡眠は、ストレス解消や疲労回復にとても大切ですが、何より、ストレスや疲労を溜めすぎない生活を送ることが大切です。ロングスリーパーは病気に分類されないのか
ロングスリーパーはあくまでも体質であり、病気ではないという考え方が主流です。 ロングスリーパーの方はたしかに一般の方よりも長い睡眠時間を必要としますが、本人にとって十分な睡眠をとれていれば、普通の方と同じように活動できるためです。 しかし、ロングスリーパーは生まれつきの体質ですので、もし最近になって睡眠に気になる症状があらわれたという場合は、睡眠障害の可能性があります。しっかりと寝ていても日中に眠気を感じるなど、ロングスリーパーと似た症状があらわれる病気や睡眠障害は主に以下のとおりです。- 睡眠時無呼吸症候群
- 睡眠過剰症(過眠症)
- ナルコレプシー(過眠症の一種)
- 遅延睡眠相症候群
気になる症状が続く場合は、一度病院を受診してみることをおすすめします。
ロングスリーパーのデメリット
ロングスリーパーだと、何かデメリットはあるのでしょうか?睡眠時間と寿命の関係についての研究結果もご紹介します。長時間眠ると寿命が縮む?
1980年代、アメリカで行われた研究によると、長く眠るほど寿命が縮む恐れがあることがわかりました。 100万人以上を対象に、睡眠時間と寿命の関係について調べた研究で、最も死亡率が低いのは一日あたり6.5~7.5時間の睡眠を取っている人で、7.5時間以上の睡眠時間を取っている人は、それよりも死亡率が20%以上も高くなったそう。
研究を行なったカリフォルニア大学サンディエゴ校のダニエル・クリプケ博士は、「睡眠は食欲と似ている。欲望に任せて食べ過ぎると健康を害するように、睡眠も取りすぎると体に良くない」との見解を示しています。 また、北海道大学の玉腰暁子教授が、40~79歳の男女約10万人を、10年間にわたって追跡調査した実験でも同じような結果が出ています。こちらは対象者の平均睡眠時間は男性7.5時間、女性7.1時間で、死亡率が最も低かったのは男女とも睡眠時間が7時間の人たちで、睡眠時間が7時間より長い人は死亡率が高くなる傾向が示されました。
睡眠の量だけではわからない
睡眠時間という数字だけを見れば、7時間前後の睡眠時間が一番寿命が長くなるようにみえますが、睡眠の質も大切で、時間だけで測ることはできません。実際に、男性に限っては5時間前後の睡眠の方が最も寿命が長いと結論づけた調査もあります。 人は睡眠を「時間」で捉えがちですが、あくまでも時間と質のどちらも大切です。睡眠の質を最大限に高めることで、今よりも少ない睡眠時間で満足のいく睡眠効果を得ることができるかもしれません。一日における活動時間が短くなる
ロングスリーパー特有のデメリットは、長い睡眠時間を必要とするため、他の方より1日の活動時間が短くなるという点です。 次の日が学校または仕事の場合は、20時〜21時には就寝しないと遅刻したりパフォーマンスが低下したりするおそれがあるため、夕方や夜に予定を入れづらい、家事や勉強、趣味など自分のために使える時間が少ないなどの悩みを抱えることがあるでしょう。ロングスリーパーの治し方
ロングスリーパーはあくまでも病気ではないため、一般的な睡眠時間まで短縮するような治療法はありませんが、眠りの質を高くすることで改善できるかもしれません。 睡眠時間を短くする際は、一気に減らさず、15~30分など少しずつ減らしましょう。朝起きて太陽光を浴びる
起きたらまずカーテンを開け、太陽の光を15秒ほど浴びましょう。朝に強い光を浴びると体内時計がリセットされ、約14~16時間後に睡眠をつかさどるホルモンの“メラトニン”が分泌されるので、夜になると自然と眠くなるサイクルを身に付けることができます。これは、曇りや雨天の日でも効果があります。起床時間や就寝時間を一定にする
平日と休日で起きる時間が違ったり、夜更かしする日が多いと、体内時計が乱れて睡眠が浅くなる原因となります。体内時計がリセットされてから14~16時間ほどで、睡眠を促すホルモンである“メラトニン”が分泌されて休息状態になるといわれています。睡眠時間のズレは2時間以内に抑えて生活リズムや体内時計を整えることを意識しましょう。就寝前にぬるめのお湯に浸かってリラックスする
眠る1~2時間程度前に、38℃程度のぬるめのお湯で25~30分ほど入浴すると、副交感神経が優位になってリラックス効果が高まるので、質の高い睡眠を得ることができます。また、入浴によって一時的に上がった体温が下がるタイミングで眠気を誘発させることができます。腹部までつかる半身浴の場合は、40℃程度のお湯に30分ほど入浴すると同様の効果があります。 ただし、入眠直前に42℃以上の熱いお風呂につかると、交感神経が働くので気をつけましょう。就寝前にアルコールやカフェインをとらない
アルコールには脳の中枢神経を抑制する作用があるため、一時的に眠くなりますが、アルコールが分解される際に発生するアセトアルデヒドには覚醒作用があるので、眠りを浅くする原因となります。 また、カフェインを多く含む飲み物は交感神経を刺激するため入眠しにくくなります。夕食後に、エナジードリンクや栄養ドリンク、コーヒー、紅茶、緑茶、ウーロン茶、ほうじ茶などを飲む習慣のある人は注意しましょう。就寝前にスマホやパソコンの画面を見ない
スマートフォンやパソコンの画面から発生するブルーライトは、睡眠を促すメラトニンの生成を抑制する働きもあり、眠りの妨げになります。覚醒作用があるだけでなく、ベッド内で強い光を浴びると体内時計が狂ってしまい、寝付きの悪さにもつながるので、入眠の1~2時間前からは、デジタルデトックスするように心がけましょう。ロングスリーパーかどうかを診断するには
必要な睡眠の長さは、その方の体質や日中の活動量などによって異なります。 また、その方にとって必要な睡眠時間は何時間何分かを正確に計測する方法はないため、自分がロングスリーパーかどうか明確な診断をくだすのは難しいといえます。 このためもし睡眠に気になる症状があり、何からの病気でないか調べたい場合はクリニックを受診するようにしましょう。日中に強い眠気を感じる場合は脳神経内科や精神科、大きないびきがある場合は耳鼻咽喉科などを受診するとよいでしょう。
また、最近は睡眠外来や不眠症治療専門クリニック、睡眠専門クリニックなどもあります。 また、自分がロングスリーパーかどうか簡易的にチェックするには、睡眠日誌の記録がおすすめです。 1週間以上にわたって10時間以上の睡眠をとっており、日中に眠気がなければ、ロングスリーパーの可能性が高いといえるでしょう。
深い睡眠がとれれば問題なし?
ロングスリーパーが必ずしも悪いことではありませんが、長い睡眠が必ずしも良いわけではありません。 長時間眠っていても、睡眠の質が低ければ心身ともに疲労が取れません。反対に、睡眠の質が高ければ少ない睡眠時間内でも効率的に体や脳を休めることができ、翌朝、頭がクリアな状態を維持することができるので、集中力アップ、イライラしない安定したメンタルなど、仕事のパフォーマンスにもつながります。ロングスリーパーには著名人がたくさんいる
学者や著名人の中にもたくさんのロングスリーパーの方がいます。学者・研究者
「相対性理論」で有名な物理学者のアルベルト・アインシュタインは、1日およそ10時間眠っていたと言われています。その際、寝室には人を近づけないために鍵をつけていたとか。さらに2002年にノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊博士は11時間と、かなりのロングスリーパーと言われています。スポーツ選手
メジャーリーガーとして有名なイチロー選手、ゴルフ界で名前を知らない人がいないタイガーウッズ選手、モンゴル出身の横綱力士の白鵬もロングスリーパーだと言われています。漫画家
人気アニメ「ゲゲゲの鬼太郎」の作者として有名な水木しげるさんもロングスリーパーと言われています。 想像できないような創造力や集中力、行動力を発揮する著名人たちは、一般的な睡眠時間の概念ではなく、自分にとって本当に必要な睡眠時間の基準を持っているのかもしれません。
ですが、多くの時間を睡眠に取られてしまう現代人のロングスリーパーは、睡眠不足になることも多いでしょう。必要な睡眠時間を確保できない日々が続くと、健康を害する恐れもあるので、日中に眠気や倦怠感を感じるようであれば注意が必要です。